レポート

秋田県横手市|秋田県立増田高等学校

【実施報告】「ヒューゴローザザーン 雷が呼ぶ魚」ワークショップ

2026.04.08

学校ワークショップデザイン海洋教育

みなとラボは2026年2月25日(水)、秋田県・横手市十文字西地区交流センターにて、秋田の海と暮らしの関わりを表現した紙芝居と楽器の教材「ヒューゴローザザーン 雷が呼ぶ魚」を使用したワークショップを実施しました。本教材を一緒に制作したデザイナーのイザベル・ダエロンさんとともに、秋田県立増田高等学校の生徒たちが「海とのつながり」を再発見したワークショップの様子をレポートします。

紙芝居教材「ヒューゴローザザーン 雷が呼ぶ魚」の制作に至るまで

秋田県は山岳地などの変化に富んだ地形で、大きな河川が各地に水の恵みを運ぶ、海と山が織りなす豊かな自然環境が特徴です。このプロジェクトは、自然豊かな秋田の中でも、海とは距離のある内陸部に流れる雄物川を起点に、海とのつながりを見つけることからスタートしました。

撮影:みなとラボ

みなとラボはイザベルさん、そして編集者の永井佳子さん(紙芝居の文を担当)とともに、2024年6月に田植え時期の大仙市を、2025年2月にハタハタ漁で有名な男鹿半島を訪れました。そして集落に立つ人形道祖神や小学校での鹿島流しの人形づくりを見学。地元の高校生や民話の専門家、川みなとに詳しい方々や宮司、漁師、水産関係者など、さまざまな方々へのインタビューを行いました。

2回のフィールドワークを経て、漁業や川を中心とした信仰、ハタハタを通じた食文化など、山と海が人々の営みによって結ばれているという秋田県特有の文化や暮らしを知ることができました。そして、このつながりをより多くの人々にわかりやすく、「物語」として伝えるため、海・山・川の相互依存的な関係を理解するための「装置」として、風、波、雨、雷の音を響かせる楽器と紙芝居を制作することに。制作には秋田杉や山桜、曲げわっぱの技法、そして気温の低い冬に作られる十文字和紙など、秋田ならではとなる素材や伝統技法を採用することで、物語により奥行きも生まれました。今回のワークショップは本教材の完成を記念し、製作者であるイザベルさんと一緒に行われました。

音と物語で、内陸から海を考えるワークショップ

ワークショップは、秋田県立増田高等学校の2年生芸術・文化系列の生徒たちを実施されました。まず、みなとラボから海とのつながりを感じられない状態「OCEAN BLINDNESS」という課題について触れたのち、パリを拠点に活動するイザベルさんが自己紹介。15年ほど前から取り組んでいる、水や太陽、風といった自然の流れに関連するプロジェクトについて、美しいイラストとともに紹介されました。

フィールドワークはイザベルさんが日常的に用いている方法として「リサーチウォール」にまとめられていきました。歴史や民話、地理や技術、社会、地質など、一見バラバラに見える情報を1枚の紙に整理することで、その土地が持つ多様な関係性を総合的に捉える手法です。ワークショップでも本プロジェクトのリサーチウォールを壁に貼り、イザベルさん自身が説明を行いました。

その後、秋田で実施したフィールドワークでの学びや、楽器に施されている「十文字和紙」と海とのつながりについて話を広げていきました。江戸時代から雄物川のほとりで受け継がれてきた十文字和紙は、地元の楮(こうぞ)を原料とし、冬の季節に和紙づくりが行われます。かつて、この和紙は川の水運に乗って秋田市へと運ばれ、そこから広く流通していました。地域にある素材が、実は「水」を介して遠い場所や海へとつながっていた事実に、生徒たちも興味深く耳を傾けていました。

音と物語への没入:生徒たちによる実演

いよいよ、紙芝居の読み聞かせがスタート。地球を覆う海や大気の動きが秋田の季節に影響を与えるところから物語ははじまり、ハタハタの一年を通して自然の循環を描いた紙芝居。イザベルさんも自ら楽器を奏で、教室の空気は一気に物語の世界へ引き込まれました。

その後、生徒たちは2つのグループに分かれ、読み手と楽器担当を決めて実演に挑戦。紙芝居の一部には「雪どけの音」を考えて表現するシーンがあり、あるグループは、近くにあった蛇口を実際にひねり、水の流れる音を演出として加えていました。紙芝居と楽器の実演を通して、海と自然サイクルのつながりをより理解する体験になりました。

身近な暮らしの中に海を見つける

ワークショップの締めくくりには、ワークシートを使い、雪どけのシーンが描かれた1枚から、この時期に感じる身の回りの自然や暮らしの変化について意見交換を行いました。 「虫や動物と遭遇するようになる」「ばっけ(ふきのとう)の天ぷらが食卓に並ぶ」といった春の訪れを感じる出来事が発表されました。一見、海とは無関係に思えるこれらの暮らしですが、生徒たちからは「生活の中には実はいろいろな場面で自然や海とのつながりがあるということを再認識した」との声が上がりました。

ワークショップのあとは、十文字和紙の原料となる楮(こうぞ)の皮をはぐ作業をイザベルさんも生徒たちと一緒に体験。横手市には海はありませんが、地元の文化や景色、また日々の暮らしが自然の循環の中にあり、海と深くつながっているということを体感できるワークショップとなりました。

本教材は、今後は秋田県内だけでなく全国で教材として貸し出しを行う予定です。内陸部にとどまらない海洋教育の教材として、言葉と音、そして物語を通して、海という大きな存在に触れる機会を広げていきます。


紙芝居教材「ヒューゴローザザーン 雷がよぶ魚」
絵:イザベル・ダエロン
文:永井佳子
企画・編集・製作:一般社団法人3710Lab
デザイン:イザベル・ダエロン、Studio Idaë
製作:中野木工、柴田慶信商店、十文字和紙愛好会

協力:秋田県立大曲高等学校、秋田県立増田高等学校、秋田水産振興センター、秋田木工株式会社、伊豆山神社、 男鹿水族館GAO、株式会社角間川、郷土史研究 小松和彦、ぜん吉商店、大仙市立大曲小学校、大仙民話の会、だいせんLabo、塚本技術士事務所、土崎みなと歴史伝承館、ハタハタ漁師 西方強(五十音順)

この活動は日本財団の助成により実施しています。

撮影:
山本康平