レポート

宮城県|気仙沼市立唐桑小学校

ふるさとをつむぐ【リアスサミットin唐桑/後編】

2018.03.26

学校イベント地域海洋教育

2018年1月26日に開催されたリアスサミットin唐桑。前編では児童によるポスター発表の様子をレポートしました(参照:ふるさとを守り続けること【リアスサミットin唐桑/前編】)。引き続きサミット後半の模様をお届けします。

ふるさとを語り合う

サミットは休憩をはさんで後半の部、「みんなで語ろう」へ。
「ふるさと唐桑を守り続ける~唐桑のよさ・唐桑の人のすごさ~」をテーマにグループに分かれて意見を出し合います。

まずは「新しく発見した唐桑のすごいこと」、「海に関わる人のことで伝えたいこと」について語り合いました。
自然がたくさん・日の出が好き・唐桑の人は優しい・挨拶をすると返してくれる・おいしい食べ物がたくさんある・カキがおいしい・生カキを食べるのが目標・唐桑にぜひ来てほしい・唐桑のカキのことを全国の人に知ってほしい……と次々に意見が出ます。

車座になると全員の視線が集中するので発言しにくそうな子も中にはいます。
そのような時は、グループリーダーの6年生が児童がどの学習段階にいるのかを踏まえて、下級生に対して話題を振ったり話を促していきます。
「4年生は筏をつくるんだよね。どうだった?」
「筏を作るのは大変だとわかった」
「それからどんなことを思ったかな?」
「作業一つ一つが大変なので漁師さんはすごいと思った」
「来年は植樹祭に参加するけど何を知りたい?」
「森のことをもっと知りたい」
6年生は今までの各学年次の学習内容をまとめる作業をおこなってきたこともあってか、見事な司会さばきでした。

各グループのリーダーが意見を取りまとめて発表した後、唐桑小学校の海洋教育を担当している主幹教諭佐藤祐美子先生からさらに質問がありました。
「唐桑の人が優しいと思うのはどんな時ですか?」
「カキ剥き体験のときです。休みにも関わらず僕たちのためにやってくれます。」
「こないだやったカキ剥きはどこでやったかわかる?」
「○○さんの加工場!!」
サミット全体を通して、子供たちからは、支援者への感謝の言葉が自然に発せられていました。○○さん、△△さんという地域の方の名前も即答で出てきます。
児童たちがどこまで大人の事情を理解しているかはともかく、地域の人の協力があってこそ体験学習をできていること、何よりもその出来事が楽しかった思い出になっているようで、それゆえ次のような発言も出てきました。
「唐桑のことが好きなのでもっと有名になればいいのになと思いました。」


地域の協力あってこそ

各学年の児童は、ワカメやカキについて調べるために、養殖業者や水産試験場の職員などの専門家から知識を学ぶことができる体制が整っています。そういった体験学習は地域の協力なしには実現しえないものです。

以前、海洋教育を実践する際の地域からの協力を得る難しさについて、気仙沼市の教育長を務められた方から伺ったことがあります。たとえば、漁業に従事する人にとっては、体験学習を実施すると1日仕事を休まないといけなくなってしまいます。その分の休業補償を学校で用意することはできない以上は、無償で協力をお願いするほかありません。本音を言えば面倒と思うところもあるかもしれません。
もっとも、漁業の世界は高齢化と後継者不足に悩んでいるところでもあり、担い手育成に力を入れていくことは必須です。
「漁業は大変で辛いこともあるけどやりがいもある楽しい仕事だ」ということを直接子供たちに伝える機会をもつことは、今後の漁業にとっても大事なことです。そういう意味では、子どもたちが漁業者の仕事場である海に親しむ機会を提供することは、漁業者にとってもメリットがあります。ただそれ以上に、「カッコいい」「将来は漁師になりたい」という子供たちからの素直な感想を大人が受け取ることができるというのは、大人にとっても大事な経験なのではないかと思います。

定置網起こしやカキ剥き体験に参加した児童のコメントからは、「予想以上に網が重くて疲れた。毎朝3時に起きてあんな作業をする漁師さんはあらためてすごいなと思いました。」「ナイフで剝き取るときにカキの身をくずしてしまったり作業が難しくて大変だということがわかりました。」といった漁師の仕事に触れてみた感想が聞かれました。中には「漁師さんはカッコいいと思った。」という声も。こうした体験学習をきっかけに、子供たちにとって漁師という職業が身近になるのではないでしょうか。
子供たちには、学校行事にありがちな仕方なくやらされている感が全然なく、むしろ教育機会を利用して主体的に地域とかかわっていこうという姿が伺えました。
それは終了後に子供たちから聞いた感想からも感じられました。
私たちはお金を払っているわけでもないのに、本気になって教えてくれる、支援してくれるのは唐桑の人だけだと思います。そして、このサミットで感謝の気持ちを伝えることができたのではないかと思います。私はとってもうれしかったです。
リアスサミットin唐桑という全校が行っている総合的な学習の時間の内容を理解し合う取組は今回が初めてでした。リアスサミットへ向けた練習では、どうすれば幅広い年代の方々に、唐桑小学校の総合学習をご理解いただけるかなどと迷うことが多々ありました。ですが、逆に考えるとこれがリアスサミットの歴史の始まりなのかもしれないと思いました。


大人から子供へ 子供から大人へ

参加していた大人たちからも。
「私は唐桑で生まれ育ったのですが、畑仕事やらいろいろなことを経験できることはいいし、大きくなったら他の人に話してほしい。」
「唐桑小学校の出身だが、こんな体験は学校ですることはなかった。とてもいい取り組みだと思う。」
「いまほど厳しくない時代はウニとか採って食べていたけど、今はそういうこともできない。もっと海と親しんでほしい。」
体験学習の実施に協力した地域の人から。
「素晴らしくて涙が出てきた。」
「よその町には無いものが唐桑にはある。」
「海を大切にして、ウニやアワビを採っておじいちゃんやお父さんに食べさせてあげてください。」
子供たちからは支援してくれたことに対して感謝の気持ちが述べられ、受け取る大人たちの側がそれに応えようとする交流が生まれていました。
地域全体で子供を育てる環境を整えることは、子供からの反応が保護者や地域の大人へ返っていくところまでを含めて、色んな方面によい影響を与えてくれる可能性を持っているということを実感させてくれた「リアスサミットin唐桑」。今後の展開が非常に楽しみです。

ふるさとを守り続けること【リアスサミットin唐桑/前編】

取材・文:
北 悟