2018年1月26日、気仙沼市立唐桑小学校において、~ふるさと唐桑を守り続ける~「リアスサミットin唐桑」が開催されました。 宮城県気仙沼市の唐桑町。カキをはじめ、ホタテやワカメといった海産資源が豊富な地域で、「森は海の恋人」のキャッチフレーズで有名な環境運動の発祥地としても知られています。 唐桑小学校の児童は、海に関する校外学習や体験活動を通して、ふるさと唐桑のよさについて学んでいます。会場には、教育関係者のほか、児童の保護者や海洋教育の実施を様々な形で支援した方々など、多くの方々が詰めかけました。 ふるさとを守り続けるために開催された「リアスサミットin唐桑」の歴史の始まりをレポートします。
自分ごととして取り組む
発表を成功させようと意気込む子供たちの興奮と熱気と、それを見守る保護者の緊張感が漂う中、開会行事が始まりました。
本サミットは、進行役をはじめとしてほとんどを児童の手によって進められます。
児童それぞれがリアスサミットを成功に向けて自分の役割を立派に担いますが、中でも出色なのは、開催にあたっての趣旨説明です。話者の6年生児童自身が考え、まとめたものだそうです。
「唐桑にはすばらしい人や自然の恵みがたくさんあるにもかかわらず、高齢化が進み、後継者不足に悩んでいるという苦しい問題もあります。自分たちに何かできないだろうかと考え、唐桑小学校における海洋教育の取組を発信し、ふるさと唐桑の良さの理解を深め合います。」
地域の現状認識とそれに対する自分の向き合う姿勢が述べられます。そして、
「また、この取組を支えていただいている地域の方々がたくさんいます。他の地域では経験できないような貴重な体験を数多くさせていただいています。何よりもまずは、今日のサミットを通してその方々への感謝の気持ちを伝えたいのです。そして、唐桑の将来のため、未来のために自分たちにできることを多くの人が考える場を作りたいと思います。ここにいるみなさんの心をつなぐことができたら最高です。私たちは、今日のサミットに全力で取り組みます。」
……実に熱のこもった趣旨説明でした。
2017年夏、海洋教育こどもサミットinひろのに参加してきたこともあり、他地域との比較を通して自分の地域への思いや考えが深まったということもあるでしょうが、それにしてもしっかりとした考えで驚きました。
唐桑小学校では、舞根森里海研究所などの学校外の支援団体や、水産業に携わる人の協力を得ながら、自分のふるさとが海とともに生きている環境であることを実感させる海洋教育を実践しています。
海に関する校外学習や体験学習を通して海洋教育を実施するには、学校の取り組みに快く協力をしてくれる地域の理解者が不可欠です。
大小様々な形で海洋教育を支える支援者に感謝を述べる機会として、唐桑小学校でおこなわれている海洋教育の取り組みを地域に発信する機会として、リアスサミットは開催されました。
つながりを理解し発信する
開会行事が終わるといよいよ発表へ。1年生と2年生は生活科の学習でおこなった野菜作りについて。みんなが描いた絵からは収穫した野菜の種類の豊富さがわかります。また、1年生は唐桑幼稚園の園児と一緒に海の活動をしたことを紹介しました。唐桑地区では、幼稚園~小学校~中学校が連携して発達段階に即した海洋教育に取り組んでいます。
次はポスターセッションです。3年生から6年生が学習したことを絵や写真を使って発表します。なかには、ワカメになりきって寸劇をしたり、カキ筏の模型を作って説明したりと様々に工夫を凝らしていました。
唐桑小学校では、総合的な学習の時間等を利用した海についての学習において、地元の特産品であるカキを学習の中心に据えています。4年生になると、カキの解剖をしたり、種ばさみ(ホタテの殻についた種ガキをロープに挟み込む作業)や筏づくりといったカキ養殖にまつわる学習を通して、カキの生態について学びます。
5年生以降も、耳つり(カキの貝殻に小さな穴を空け、テグスを通しロープにくくりつけていく作業)を体験したり、カキ祭りに売り子として参加します。
「この中でカキが好きな人―?」校長先生が子供たちに問いかけますがあまり手が上がりません。「カキ食べたことない」「え、食べたことないの?」産地だからといって食べる機会が多いとは限らないようです。
カキのような個性の強い食材はあまり得意ではないという人は少なくないように思います。たしかに、唐桑におけるカキのように地元で採れる食材が美味しいということは、シンプルに地域のことについての学びの動機になりそうです。では、その食材が好きではない場合は、あまり学びの動機に結びつかないのでしょうか。そうではないということが気づかされるポスター発表が続きます。
唐桑小学校では、5年生以降はカキ養殖に関する活動を引き続きおこなうとともに、森・川・海のつながりを意識した学習に取り組みます。
たとえば、海洋クルージングをおこなって、大川の河口部の汽水域について観察をします。「汽水域の色は水色で、海側のほうが色は濃くなっていることがわかりました。」
川と海は護岸工事によって地図上は境がはっきりと区別されているようにも見えますが、水の流れという観点からは川と海との境はあいまいです。上流域でつくられた植物プランクトンは、大川の水と一緒に下流まで流れて、汽水域を通ってふるさとの海である気仙沼湾にそそぎ込み、カキの栄養となります。こうした川から流れる水の動きを洋上から観察するというのは面白い試みだと思います。
他にも、大川の中流域を歩いて観察して、生き物の生育状況を調べます。生き物がたくさんいればそこは植物プランクトンが流れてきている場所であることがわかります。
そして、森は海の恋人植樹祭。大川上流の室根山に落葉広葉樹を増やすための植樹がおこなわれています。30年以上に渡って続けられているこの環境保全活動に唐桑小学校の児童も参加しています。良好なカキの生育環境を整えていくためには、自分の地域の森・川・海の環境を維持することが大切だということを身をもって知るために、児童が頑張っています。
このように、森・川・海のつながりという観点からカキのことを学んでいました。カキが学びを展開させていくためのハブになっているのでしょう。カキについての学びの入口は地域資源を利用した体験学習という形で用意されていて、それぞれが学びの動機を形成するために十分な魅力をもった学習内容になっていました。
ある児童のコメントです。
「いままでカキは好きではなかったのですが、調べたことをきっかけにこれから食べられるようになりたいと思いました。」
カキについての学びの入口は「食べる」以外にもたくさんあるということを実感しました。
地域の中にある学校
今回のリアスサミットには、2017年度限りで閉校となる小原木小学校の全校児童が参加をしていました。2018年度からの唐桑小学校との統合を控え、様々な形で学校間の交流を深めています。
小原木小学校の6年生からは、唐桑のまちづくりについて学んできたことについての発表です。閉校した学校の校舎を利用した観光施策についての先行事例を踏まえ、閉校後の小原木小学校を地元体験オリジナル観光ツアーの核にすることを提案しました。小学校の校庭は遊具がたくさんある公園施設として、校舎は宿泊施設として利用するという案も。たとえ学校としての役割は終えても、建物に今までと違った役割を担ってもらい未来に地域の良いところを残そうというアイデアを披露しました。
ここから後半の部「みんなで語ろう」のプログラムへと移っていきます。ふるさとを守り続けるとはどういうことなのかについて児童たちが話し合います。それについては後半のレポート(ふるさとをつむぐ【リアスサミットin唐桑/後編】にてお送りします。