レポート

岩手県洋野町

「海」を哲学する ー海洋教育こどもサミットinひろの

2018.01.30

学校イベント地域海洋教育

2017年8月9日に岩手県洋野町にて「第2回海洋教育こどもサミットinひろの」が開催されました。海洋教育に取り組む子どもたちが自らが取り組んでいる実践や研究を発表し、意見交換や議論をしました。その様子をレポートします。第1回海洋教育こどもサミットin東北については、記事下のレポート(海に親しみ地域を知る前編・後編)をご参照ください。

第2回目の「海洋教育こどもサミット」の開催地は岩手県の沿岸部の最北地にある洋野町です。洋野町には全国でも稀な「海洋科」という教科を設置している中野小学校があります。海洋科は、文部科学省の認定を受けて特別に設置している教科であり、地域の特性を生かし、より効果的な教育を行うことを可能にしています。中野小学校の授業については過去のレポート(先人たちの知恵を探るー特別の教科「海洋科」)を参照ください。

中野小学校に限らず、洋野町では海洋教育が盛んに行われています。「海洋教育って海に面した場所だからできるんでしょ?」とはよく言われますが、確かに内陸部に比べたら海は近いものの、実際に海に面している学校などほとんどありません。くわえて、海洋教育と聞くと、海をフィールドに行う教育をイメージする方が多いですが、洋野町にて行われている海洋教育は、「地域が海とどのように関わってきたのか、そして今後どのように海と関わっていくのか」を探究するものです。実際、洋野町は沿岸に近い九戸郡種市町と山側の同郡大野村が合併してできた町であるため、海からはかなり離れた学校もあります。山側の学校が海を考え、海側の学校が山を考え、自然の循環を地域全体で考えていく教育に力を入れています。そんな洋野町の海洋教育は、「ひろの学」としてさらなる発展を目指しているようです。
そんな洋野町で行われた海洋教育こどもサミットには、東北地域で海洋教育に取り組む小・中・高校生が集まりました。


今回のこどもサミットのテーマは「海に学び 海と生きる」です。
はじめに中野小学校「わんぱく太鼓」児童によるサケの遡上をイメージして作られた太鼓の演奏がありました。

次に児童・生徒の代表挨拶がありました。「海とともに生きる私たち、私たちの生活になくてはならない海についてたくさんまなび、ふるさとについて考え、未来につなげていくことができるようなサミットにしていきましょう。」
その後、今回が初めてのチャレンジとなる「海の哲学対話」に向けて、種市高校の生徒から説明がありました。海に関して疑問に思っていることや不思議なこと、これから私たちが海や自然とどのように関わっていけばいいのかということについて、サミット全体を通して考えてみようと。

「哲学とは、「答えのない」問いについて考えていくことです。1+1には2という答えがありますが、そうではなく、たとえば「生きる意味って何だろう」や「なぜ海を大事にしなければいけないの?」といった問いについて考えることが哲学です。でも、ひとりで哲学をすること、ひとりで考えつづけることは、大変なことです。そこで、みんなで哲学をしてみよう、みんなで話してみようというのが、この後行う「哲学対話」です。」
そのために、ポスター発表を聞く時の視点が伝えられました。「なぜ?」「どうして?」という問いを持つこと、「ふしぎ」や「気になる」点を見つけること、「わからないから、いっしょに考えてみたい」点を見つけること、三つの視点が伝えられました。
発表する準備だけではなく、ポスター発表を聞く準備も整い、いよいよポスターセッションの時間になりました。


ポスターセッションでは、各地域・各学校の特色を生かした実践や、児童・生徒のやわらかな発想にもとづくダイナミックなアイデアや企画、素朴な疑問に対しての探究の成果などが発表されました。

発表の仕方にも創意工夫が凝らされていました。クイズ形式で参加者との交流を図るグループもありました。

発表後には意見や感想を付箋に書いて発表者に渡したり、ポスターに貼り付けたりし、来場者との交流が促されていました。


いよいよ「海の哲学対話」のプログラム。高校生がグループ名が書かれたボードを掲げ、メンバーの集合を声がけします。
グループは事前にわけられており、1グループがだいたい10人でした。グループにわかれると、高校生が海の哲学対話のやり方を説明しはじめます。まずは、自己紹介からはじまりました。ポスター発表を見ての感想や疑問に思ったこと、みんなと一緒に考えたいことがあれば言ってね、などと声がけをしながら、場を作っていきます。

自己紹介が終わると海について考える前に、学校についての哲学対話がはじまりました。学校って一体なんであるの?学校はなぜ行かなきゃいけないのか?なんでみんなが同じ授業を受けなくてはいけないの?なんで校則があるの?などなど、誰もが一度は疑問に思ったことがある問いが出されていきます。

哲学対話には、簡単なルールが設定されていました。話せるのはコミュニティボールを持っている人だけ。話したい人は手を上げてコミュニティボールを受け取ってから話をすること、です。このルールは、話すことよりも「聞く」ことを大事にするためのルールであるように思いました。話す人は一人だけであり、残りの人はじっくりと話を聞き、考えを深めることになります。聞くことが大事にされているため、話す側も話しやすそうでした。

海の哲学対話がはじまりました。海については当然あるものとして、普段考えたり意識することもない中で、海についてじっくりと考える時間がはじまりました。

なかでもおもしろかったのは、「海はなぜ大事にしなければいけないのか」という問いについて考えたグループです。大事にしないよりは大事にしたほうがいいのでしょうけれど、確かに、なぜ大事にしなければいけないのかと問われると困ってしまいます。生きるため、と考えてみても、どのように生活と関係しているのかは見えにくいことです。学校教育においては、自然環境は大事にしましょうなどと教わりますし、大事にすることが無条件に正しいかのように捉えられがちです。そのことを「哲学的」に問い返した問いをめぐっては、様々な意見が出ていました。「海は自然のものだから、そのまま自然にしておいたほうがいい。大事にしなくてはと思うこと自体がおかしいような気がする」とか「結局、自分たちが汚している海を大事にしなければと言っているだけじゃない?海を大事にしているわけじゃないと思う」とか「大事なのは人間の生活で、海そのものを大事にしているわけじゃないと思う」などなど。そのやり取りに、ううむと唸りました。


各グループで盛り上がっており、対話はどうなっていくのかと気になっていましたが、時間がきたらそのまま対話は終了となりました。聞くと、無理矢理に「答え」のようなものを出すのではなく、モヤモヤした思いを抱えたまま、各自が考えを深めることを大事にしているためにそのようにしているとのことでした。


最後に、東京大学海洋アライアンス海洋教育促進研究センターの日置光久特任教授から、全体講評があり、第2回海洋教育こどもサミットは幕を閉じました。
「世の中には本当の正解なんてない。教科書に書いてあることを覚えていれば、一生大丈夫だという世界ではない。だからこそ、皆さんが今回、課題を見つけて探究し、その結果を友達に伝え、意見交換したように、自分で考え、友達と一緒に考え、探究し続けていくことが大事です。」

風土や地域性の異なるそれぞれの環境の中で、児童生徒たちは自分たちで課題を見つけて、探究を深めています。今回のイベントでは、その探究の成果を報告しあい、互いに言葉を交わすことで、今後の探究をより深めて行く機会となったようです。今後の展開が楽しみです。

海に親しみ、地域を知る ー海洋教育こどもサミットin東北(前編)

海に親しみ、地域を知る ー海洋教育こどもサミットin東北(後編)

取材・文:
3710LAB
写真提供(一部):
洋野町教育委員会