新潟県佐渡市|佐渡総合高等学校

書籍『あなたと出会った佐渡』完成

2022年度成果報告

2023.04.06

学校地域海洋デザイン教育

みなとラボと2022年度新潟県立佐渡総合高校1年生95名が1年間かけ、書籍『あなたと出会った佐渡』を制作・出版いたしました。働くことや暮らしについて、自分の眼と耳で直接その声を聞き、文章と写真で記録していきました。本書には、高校生が出会った95名のさまざまな生き方が記されています。佐渡に暮らし、働き生きる。この本から、そのてらいのない等身大の姿を想像してもらえたら嬉しく思います。
2020年度には、同校1年生96名(当時)と『佐渡に暮らす私は』を制作いたしました。本書はその2弾目にあたります。
左:2022年度制作『あなたと出会った佐渡』 右:2020年度制作『佐渡に暮らす私は』

授業の背景

自己の将来の生き方や進路について考えることが目的の「産業社会と人間」という授業からうまれた本です。誰にでも、働き、暮らし、生きてきた長い時間と考えの積み重ねがあります。それは生徒たちの身近な人にとっても同様です。そうした「身近な人の人生」は、若い人々がキャリアや生き方を考えるうえで、さほど注目されることはありません。でも考えてみると、生徒たちが育ち、日々暮らす同じ土地でまさに働く人々とは、そうした身近な人々にほかならないのです。人が「働くこと」、「暮らすこと」、そしてそれらがほかならぬ海に囲まれた佐渡という島で営まれているということ。暮らしを支えている自然環境とのつながりに目を向けることが、働き、暮らすということを考える上で大事ではないでしょうか。この授業は、昨今重要視されている「海と人との共生」に向き合う海洋教育に対して、自然環境との関わりの中で、働き、暮らすという地点からの取り組みを提案するものでもあります。

授業の流れ

最初は2022年6月にオンラインでまず生徒のみなさんとスライドを使っての授業。みなとラボの活動紹介からこの1年で地域の人にインタビューして本をつくることを伝えました。その上で「働く」について考え、働くことの手前「いてくれる」ことの価値をワークシートに記入していきます。さらに、みなとラボスタッフの職歴などを話すことで、「仕事」や「やりたいこと」ひいては「生きること」が異なっていくことを伝えました。このように、佐渡で働き、生きる人たち一人一人の「働く」を聞くと、さまざまな「働く・生きる」のあり方や意味が見えてくるはず。

「聞くこと」「書くこと」の意義を学び、では「冊子にすること」の意味とは……。と、ここで2020年度に制作した書籍『佐渡に暮らす私は』の反応を伝えます。本は、書いた人、書く授業を計画した大人たちの意図を超えたことを起こす「きっかけ」「可能性」があります。それぞれの「意図」を超え出たできごとが起こるのです。2022年度につくる本が、どんな意味を見出すかは、まだ誰にもわかりません。一人で話を聞ける人は限られているからこそ、集めて本にすることにも意味が生まれると考えます。何年後の自分、まだ見ぬあなた、そんな未来へ向けた本を目指していこうと授業を終えました。

2022年7月1日、特別授業として「聞くこと」「撮ること」について実践を交えながらポイントを説明していきます。沈黙(間)や⾔い淀み、迷いは、対話の中で当然あるもの。対話には、お互いが相⼿の⾔葉を理解する時間、お互いが相⼿に応える⾔葉を探す時間も含まれている。正解はなく、自分とその相手によってうみだされる対話を大切にしてほしいと伝えます。

また、写真を撮る⾏為は、相⼿(被写体)と対峙し、覚悟が必要な⾏為。相⼿との関係ができていない中で撮ろうとすると、相⼿の気持ちを無視した⼀⽅的で暴⼒的な⾏為になる可能性もあるので注意が必要な旨も伝えます。

自分自身にとって譲れない大事な価値観を見つけるために、働いている人たちと対話をする。それらを踏まえ、夏休み期間を使いインタビューを行いました。 親や親戚の人など近しい人だけでなく、自分が就きたい職業人に話を聞く人もいました。夏休み明け、それらを文章にまとめていく作業を行いました。そこからプロの編集者に赤字を入れてもらい、修正を行いながら文章を整えていきました。

編集部

今回、授業とは別に「編集部」を立ち上げ9名の部員とともに、活動を行いました。 写ルンですを使い、自分の好きな場所を撮影。その中から1枚「わたしの好きな佐渡」を選び、それについて文章で綴るページを担当しました。表紙に挟んであるB4変形(356mm×254mm)の紙は、編集部が撮影した写真と座談会を収録し、折り返す位置によって見える写真が8パターン変わります。

こうして1年をかけ、本という形にまとめていきました。今後は、一般書店にて販売を行うほか、生徒たち自身で販売体験を行う予定です(書店に限らず販売店募集中)。この本がどんな広がりやどんな意味を持つのか、これから出会うあなたと考えていきたいです。

この活動は日本財団の助成により実施しています。

撮影・執筆:
2022年度新潟県立佐渡総合高等学校1年生
編集部:
飯森信三郎、伊藤明弘、右近優愛、佐藤梨心、田中龍翔、中川一輝、中村元輝、細木彩華、本間光
企画・監修:
田口康大
デザイン:
伊藤裕
編集:
小倉快子
サイズ:
W156mm×H231mm
ページ:
224頁
本体:
2,000円+税
発行:
みなとラボ出版(2023年3月23日)
助成:
日本財団

SBN978-4-9913001-0-3