レポート

we+がディレクション! 海藻生まれの「寒天」の魅力に迫る特別展「Kanten/Kanten」へ

2024.09.13

イベント海洋デザイン教育企業

あんみつに入っている半透明の四角い「寒天」は知っていても、その原料が海藻で、私たちの暮らしのさまざまなシーンで活躍している食材だということは、実はあまり知られていません。
そんな寒天の知られざる魅力に迫るのが、長野県伊那市で開催中の展覧会「Kanten/Kanten」。原料となる海藻について、暮らしでの使われ方、そして寒天を使った美しいインスタレーションまで、さまざまな観点で寒天の魅力が紹介されています。
構成を手がけたのは、3710Labと海洋環境デザインプロジェクトを進めるコンテンポラリーデザインスタジオのwe+。彼らがとらえた寒天の魅力と展覧会の見どころを聞いてきました!

寒天の魅力を伝えたいーーデザイナーと企業がタッグ

展覧会を主催するのは、長野県伊那市に本社を置く伊那食品工業。ブランド「かんてんぱぱ」で知られる創業60周年を迎える寒天メーカーです。世界中の海に生育するテングサやオゴノリといった海藻を原料として調達しながら、独自の技術をベースに研究開発を行いさまざまな寒天商品を展開。国内市場シェア8割を誇る寒天と聞いて真っ先に出てくる企業です。
今回、寒天の魅力を広めるためにと伊那食品工業とタッグを組んだのが、以前から海洋資源の可能性を探るリサーチプロジェクトを進めてきたコンテンポラリーデザインスタジオのwe+。工場へ何度も足を運び、製造工程や商品開発の背景をリサーチ。知れば知るほど寒天が持つ魅力を実感するとともに、意外と知らないことが多いことにも気づいたそう。
寒天の素晴らしさをたくさんの人に伝えたい!そんな両者の思いがつながり、今回この特別な展覧会の企画がスタートしました。

会場となるのは、かんてんぱぱガーデン内に2022年に完成した「monterina(モンテリイナ)」。地元、伊那谷の新鮮野菜から伊那食品工業のスタッフがセレクトした日本各地の美味しいものが並ぶショップにカフェも併設。

縁の下の力持ちを主役に、その美しさも表現

「寒天は私たちの日常生活、特に食の領域ではさまざまな場面で活用されていて、その機能は現代の食文化において欠かせないものになっています。また一方で、その機能性はまるで縁の下の力持ちのような、みんなに気づかれにくい存在でもある。そこで今回は寒天を主役にとらえ、その成り立ちや文化的背景を伝えながら、さらに美的側面からもアプローチすることで、寒天の魅力をより多角的に伝えられるのではないかと構成しました」とwe+。
展示のスタートは「寒天ってなに?」と題した、寒天の歴史や製造方法、そして原料となる海藻の紹介から。なぜ海で育った海藻が山の中で使われているのか、その理由を知ることもできます。会場には寒天の素材となる世界中の海で育ったテングサやオゴノリといった海藻が並び、実際に手に取ったり匂いを嗅いだりすることも。例えば同じテングサでも育つ場所が違うと色も様子もだいぶ違いがあることに驚かされます。

知られざる寒天の優れた性能とは?

続いて会場に並ぶのが、寒天が材料に使われているさまざまな商品。お馴染みのゼリー以外にも、カップうどんやツナ缶、ドレッシング、スムージー、チーズなど、寒天がどこに使われているの?と不思議に思う商品が並んでいます。
加熱すると液体になり、冷やすと固体になる熱可逆性や無味無臭であること、また粘性があるなどなど。寒天が持つさまざまな特性が、おいしさを引き立てたり、舌触りや歯ごたえをよくしたり、パッケージを剥がしやすくしたりと意外な製品の中で力を発揮していることがわかります。固まる以外の多様な性質があり、思ってもいなかった身近な商品に寒天が使われていることを知って、親近感もより湧いてきます。

透明感を活かした美しい表情を楽しむ

そして機能の多様性だけでなく、「プルプルとかわいらしく震える様子や、ゴムのように硬く簡単には割れない寒天に出会ったりと、感性をくすぐられることも多く、アートやデザインの分野にも応用できるヒントがたくさん詰まっている素材だと感じました」と話すwe+。その意外性を美しく表現したのが、会場でも一際目を引く透明の寒天の中で表現した色のインスタレーションです。

以前から、色がにじみ出る現象に興味を持ち実験を重ねてきたというwe+。
「時間の経過によって色が混じり合い、有機的に変化していく様子はとても美しいものですが、素材的にも技術的にもハードルが高く、なかなか着地点を見出すことができませんでした。でも、今回のエキシビジョンのために、同様の実験を寒天で行なったら似た現象が確認できたうえに、寒天の種類や濃度、硬さなど、さまざまな要素を微調整できることがわかり、これまでのリサーチがよりブラッシュアップできました」と、寒天の優れた性能から大満足の結果が得られたそう。
寒天の中に、色を閉じ込めた強度の異なる寒天を入れることで、じんわりと色が溢れ広がっていき美しい色の重なりが楽しめるというインスタレーション。時間の経過で様子が変わるので、その変化も見どころの一つになります。

水分を保持する、分離を防ぐ、はがしやすくする、歯応えや舌触りを良くする、味や香りを引き立てる、成分を保護するなど、寒天が持つ機能的な側面を感覚的に理解しながら、原料となる海藻や美しいインスタレーションなど視覚、触覚、嗅覚も使って楽しめる本展。寒天の知られざる魅力や可能性を感じられる見応えのある展覧会でした。

  • 『Kanten/Kanten』
  • 会期:2024年9月6日(金)~9月29日(日)
  • 時間:10:00~17:00
  • 会場:かんてんぱぱガーデン内monterina [モンテリイナ] 2F
  • 住所:長野県伊那市東春近 木裏原10561
  • TEL:0265-77-2828
  • 休館日:9月24日(火)
  • 入場:無料
  • https://www.kantenpp.co.jp/
撮影:
尾嶝 太
取材:
田村美季