レポート

海洋環境デザインワークショップ The Ocean Camping 2024 参加者インタビュー|「ブイシード」陳 柔伊

流れ着いたブイを入れ物に新たなメッセージを伝える

2024.09.21

離島ものづくりワークショップ環境デザイン海洋デザイン教育

中国・上海からの留学生で現在は武蔵野美術大学大学院の工芸工業デザインコースで研究を進める陳さん。自然と人工的なものがどう共存していくのかを議論するような作品を作りたいと、現地では海ゴミのリサーチに多くの時間を割いていました。そんな中、奄美大島に流れ着いた多くのゴミが実は中国からのものだと知った陳さんは、海ゴミとなったブイや浮きを使いユニークな冊子をデザイン。リサーチした海ゴミがどこからやってきたのか、また現地で見つけた海が持つさまざまな表情や向き合い方を種に見立てたブイや浮きの中にこめました。

Q. このワークショップに参加しようと思ったきっかけを教えてください。

「友人が昨年度のワークショップに参加していてその時の写真を見せてもらったのですが、写っていた海がとにかく美しくて、本物を見てみたいと思い応募しました。私は上海出身なのですが、こうした海が近くにはなくて、どちらかというと人工的な海が広がっています。キラキラと輝いてどこまでも広がる青い海をこの目で見て見たいというのが一番の理由です。また昨年度の作品も見せてもらったのですが、どれも着眼点がおもしろくて、私自身も海に関連した生き物や植物を素材に人工物と天然のバランスについて議論するような作品を作れたらと応募を決めました」

Q. キャンプで1番印象に残ってることはなんですか。

「目の前にはとてもきれいな海が広がっていましたが、振り返ると足元にたくさんの海ゴミがありました。美しい自然とそうではない人工物、全く違うものが同じ場所に存在しているコントラストやアンバランスさがとても印象的でした。また植物がたくさんの海ゴミを抱え込んでいたり、割れた瓶とその蓋を家にしているヤドカリがいたり、自然と海ごみが共存している様子も衝撃的でした。海ゴミについてはもちろん情報として知っていましたが、実際にどんなゴミがどのくらいの量あって、またどのように集まってくるのかを実際に目にしてびっくりしました。ゴミを拾ってもどんどんどんどん新しいゴミが流れ着いてくる事実を知って、とても複雑な気持ちになりました」

Q.  海辺に打ち上げられた海ゴミを時間をかけてリサーチし作品の題材にもしましたが、現地ではどんなことを行いましたか?

「現地ではほとんど海に入らず、どんな海ゴミが流れついているのかを手に取ったり、書いてあることを調べたり、いろんな角度からリサーチしていました。中国語が書かれたものが多くて、最初はおもしろいと思って他の参加者に翻訳してあげたりしていましたが、気がついたらその量がとても多くて、だんだんとなんだか申し訳ない微妙な気持ちになりました」

Q. 現地では他の参加者とのディスカッションの時間もありました。そこではどんなことを感じましたか?

「他の参加者は海に潜ったり釣りをしたり、私とはは違う角度で同じ海と向き合っていましたが、ディスカッションの時間にそれぞれが感じたこと、また自分にどんな変化があったのかを言葉で共有でき、他の人の角度から海を感じることができました。私自身も自分が感じたことを言葉にしたことで、だんだんと考えがまとまっていきよかったと思います。また現地で船頭さんから話を聞いたり、他の参加者からの違う海との向き合い方を少しずつ蓄積していったことで、ワークショップ前に思っていた『きれいな海をみたい!』という期待感から意識が変わり、深い考えになっていった気がしています」

Q. 3日間のキャンプでさまざまな気持ちの変化を感じたということですが、作品製作にあたり大切にしたことを教えてください。

「表現したかったのは、奄美大島を訪れて感じた私自身の複雑な感情の変化です。そしてモチーフに選んだのは中国から奄美大島に流れ着いた海ごみとなった浮きやブイです。現地で行った海ゴミリサーチでいちばん目にしたもので、いろんな形のものがあります。その形状や海に浮かんで運ばれる性質からまるで種のような存在だなと感じ、種子から新たなものが発芽するようなイメージでデザインしました。実際には浮きやブイの中には何もありませんが。ただ私はその空洞に何かを入れることができるのではないかと思い、開ける行為を付加させながら、その中に海にまつわる物語や海について知ってほしいこと、そして私自身の変化をメッセージとして込めることにしました」

Q. 浮きやブイをカットして内部が本になっています。どんな内容になっているのですか?

「3日間のワークショップで体験したことや見たもの、そして制作過程で感じたさまざまなことを日記形式でまとめています。漠然と描いていた海への憧れ。はじめて奄美大島の美しい海を見た時の感動。人工物と自然が共存している姿を見た時の好奇心。そして中国からたくさんの海ゴミが流れ着いていることを知った時の自分の複雑な心境。船頭さんから聞いた奄美大島の生き物や植物の話。そして天気や時間によっていろんな表情を見せてくれる海の写真もおさめています。ちゃんと伝わるかも確認したくて制作途中で先生や友人たちにも読んでもらいましたが、いろんな感想をもらい、見る人それぞれに違った意味や発見があるというのは私にとっても大きな気づきになりました。なので中国語で作ってみてもおもしろいかなと思っています」

Q. さまざまな大きさや形のものがあり、経年も色々なブイや浮きを使い、加工もさまざまな形を取られていますね。デザインとしてこだわった部分などはありますか?

「はじめて触った素材なので、私自身が感じた『中に何が入っているんだろう』という好奇心みたいなものを大切にしました。元は型にはめられて作られたものではありますが、長い時間海に漂っていたこともあり表面が裂けたものや石のようになったもの、貝がついているものや色が変わったものなど、それぞれの表情も生かしています。またいろんな切り方を試してみましたが、読む時の手の形で、どんな感じが1番読みやすいのかで作品の切り方を決めました」

Q. 今回のワークショップの経験は陳さんにとってどんな経験になりましたか?

「忘れられない体験の一つは目の前に広がる海で捕まえた魚をみんなで食べたことです。海から食べ物をもらったという感じではじめての経験で味もとても美味しかった。海にこそ潜ることはありませんでしたが、海にいながら海について考えを巡らせ、海と積極的に関わるような体験ができたと思います。また船頭さんの話をはじめ、他の参加者とのコミュニケーション、それに自分で調べたことなど、いろんな知識を得ることができ、自分の考えやアプローチにも変化が生まれたと思います。また今回は使える素材に限りがあったので、制作に難しさがありました。ただm逆に限りがあったことで、自分の表現を伝えるにはどうするのがいちばん効果的かなどテーマやアプローチ、素材の扱いに対して深く向き合うことができ、今後にも生かしていきたい経験になりました」