海洋環境デザインワークショップ The Ocean Camping 2024 参加者インタビュー|「海との距離を考えるワークショップ」新郷愛奈

コミュニケーションを生み出す、海と共生するためのツール作り

2024.09.21

ワークショップ環境デザイン海洋デザイン教育

福井県・坂井市三国町の海の近くで育ち、地元の海と「仲良く」してきたと表現する新郷愛奈さん。しかし2023年に発生した能登地震では海が持つ怖さも知ることに。そうした海への恐れもひっくるめて海と向き合いたいとワークショップに参加しました。現地では刻一刻と変わる海の表情や、その変化を目の当たりにした参加者の反応を観察しながら、それがどんな海なのかを知り、漂着物を使いながら海との物理的な距離を縮めていった新郷さん。環境によってそれぞれに異なる海との距離感を自分なりに近づけていけるツール作りのプログラムをデザインしました。

Q. ワークショップにどんな期待を持って参加を決めたのか教えてください。

「実家がある福井県の坂井市三国町の海や、母の生まれ故郷であるロシアに接する黒海など、子どものころから海と触れ合う時間が多く、海は自分のルーツとつながる重要なものです。そしてとても親しみを感じる存在でもあります。ただ、昨年1月の能登地震では海岸近くに住む祖父母の家に津波が来るかも知れないと海への恐怖を感じることがありました。海で暮らす祖母はそんな心配をよそにすぐにでも家に帰りたいと言い、何か海との絆のようなものを持っていることを実感しました。自分もその感覚に近づいてみたいという気持ちがあり、もっといろんな海を体験したいと応募しました」

Q. 実際に奄美大島の海を体験してみて、どんなことが印象的でしたか?

「これまで体験してきた海との違いで言うと、やはり海水浴場のように海と人が触れ合える場所と異なり、例えば浜辺にある石がすごく大きくて歩きにくかったり、崖がそそり立っていて散策できる場所が限られていたりと地形的な違いがあり、包容力のある優しいだけではない、本来の海の姿を見た感じがしました。また大雨で海の表情がガラッと変わった瞬間を見ることもでき、1日の時間を通して海と接したことでいろんな表情の海を見れたのが印象的でした。また海に潜っていると、色鮮やかな珊瑚や魚が泳いでいるのに出会えたと思ったら、急にあたりが青一色になり深さがまったくわからなくなる場所があったりしたのも印象的でした」

Q. 現地で過ごす時に大事にした視点だったりとか、意識したことはありますか。

「海と仲良くしたいという思いがあり、できるだけ長い時間海に入り海と一体化するような体験をすることを目標にしました。私は海も生き物だと捉えていて、例えば青一色の海は暗い感情、カラフルな魚がたくさんいるところは陽気な部分でといった感じで、この海はどんな表情を見せてくれるのかなと、目の前の海の性格を少しずつ知っていくようなイメージで海と接することを意識しました。はじめて知る海だったので、最初はこれまで私が経験してきた海の雰囲気や表情の違いから少し距離感を感じましたが、時間をかけて接しているとだんだんと体も慣れてきて親近感が生まれていくのを実感できて、これは新しい発見でした。ただ、一方で参加者と話しているとこの感覚を共有できる人が意外と少ないということに驚きました」

Q. 作品ではそうした海との距離感を近づけるための体験をデザインしましたが、現地でのどんな発見や経験が生かされているのでしょうか。

「ひとつ大きなブイや発泡スチロールなんかが見つけられれば、私的には波の上でも水中でもより一層楽に安全に海を楽しむことができると思います。今回は、ブイを抱えながら泳いでみたり網のようなものを拾ってそこに海の中で見つけたものを入れてみたりして過ごしていました。ブイや網といったものも海の一部として捉えて、海から借してもらいながら快適に過ごすための装備品みたいなものを作れないかなと考えていました。これは整備されていない海ゴミがたくさんある環境だったからこそできたことで、何も落ちてなかったら逆に難しかったとも思います。また長い時間海に潜っていると、どのあたりが暖かい水なのかだったり、どこに潮の流れがあるのかが見えてきます。少し冷えてきたなと感じたら暖かいところに移動したりして、快適に過ごせる場所や方法を考えていました。海と距離感が大きい人も安心して海に入ったり過ごせる環境や道具があれば、海と共生する感覚を伝えることができるのではないかと思い、海を少しずつ知っていき恐怖感を軽減させ、親しみを覚えていける、そんなツールを作りワークショップのプログラムを考えました」

Q.  作品の制作にあたりどんなことをテーマにして、またこだわったのかを教えてください。

「まずテーマとしては先に提示されていたOCEAN BLINDNESSを軸に、海を知り海と仲良くなるためには海への恐怖心を段階的に解消していく必要があると考えました。アルバイトでスイミングインストラクターをしているのですが、スイミングでも少しずつ水に慣れていくためのプロセスがあります。その経験も活かしながらワークショップを考えています。使う材料はプールヌードルと呼ばれる、スイミングのコーチングでも実際に使うもので発泡ポリエチレンのような加工しやすい素材です。制作例としてそれにロープや滑り止めのシートを組み合わせているのですが、どれも100円ショップでも揃う手軽なものです。今回は利用者がそれぞれ自分にとって必要なツールをワークショップ形式で作ってもらおうと思いました。というのも、海への恐怖心や距離感は人それぞれ異なります。たくさんのプールヌードルを使って浮島や船のようなものを作ってもいいし、プールヌードル1本で安心できる人もいる。それを競技としてツールの美しさを競ってもいいし、どんなものを作るのかで新しいコミュニケーションが生まれるという仕組みです」

Q. 今回、ワークショップに参加した感想を聞かせてください。

「みんな似たような体験をしたはずなのに、最終的な成果物として出てきたものが全然違いました。それぞれに着眼点が違って、そんなふうにまとめるんだ!というのはおもしろかったですね。キャンプでは、その日に体験したことやそれまでの経験などをシェアしたりディスカッションしたりする時間がありましたが、制作のプロセスとして少しグループワーク的なものが間にあってもよかったかなと思いました」