レポート

第3回 国際海洋環境デザイン会議 実施レポート

【前編】アイデアソンで見えた「海のミュージアム」構想とは?

2025.05.12

イベント行政・自治体地域ものづくりワークショップ環境デザイン海洋デザイン教育企業

デザインの力を使って海洋環境の課題解決に取り組みながら、豊かな海の魅力を再確認し継承していくための取り組みとして2022年からスタートした3710Labの「海洋環境デザインプロジェクト」。その大きな柱の1つとなるのが、3回目を迎えた「国際海洋環境デザイン会議」です。今回のテーマは「海のミュージアム」構想をデザイン視点で考える。参加者を広く公募し、学生や研究者、釣具メーカーや海事系法律事務所に勤務する人、水産物加工会社の代表などなど、多彩な面々が参加し、アイデアソン形式で柔軟で活発な意見交換が行われました。
会議の詳報を前後編でお伝えする本記事。前編では会議で明らかになった「海のミュージアム構想」の枠組みとその可能性について紹介します。

「海のミュージアム」の実例と可能性

2025年3月4日、渋谷ヒカリエ8/ コートで開催された第3回国際海洋環境デザイン会議。主題となったのは“『海のミュージアム』をデザイン視点で考える”です。編集者でライターの山田泰巨さんをモデレーターに迎え、3710Lab代表の田口康大から「海のミュージアム」とはいかなるものかの説明からアイデアソンはスタートしました。

海洋プラスチック問題や有機フッ素化合物(PFAS)問題、エネルギー問題に海水温上昇、そして船員不足まで、たくさんの海の問題が起こっている現代。海の問題に向き合う活動はそれぞれ行われてはいますが、取り組みの多くが点に留まっており連携や継続の難しさも課題に。そうした現状を踏まえると、海と向き合っていくには、個人や企業によるより多くの協業、そして大きな流れが必要なことは明白です。そしてその機能を果たしていくのが、3710Labの考える海のミュージアム構想です。

ミュージアム=博物館とは、UNESCOの定義によると「社会とその発展に奉仕する非営利の恒久的な施設で、公衆に開かれており、教育と研究と娯楽を目的として人類と環境に関する有形無形の遺産を収集し、保存し、調査し、伝達し、展示するもの」とあります。そしてミュージアムはみんなのためのもの、そして社会のためのものでもあり、楽しくなければならないというのが理念となり、それは海について語る時にも同じく大事なコンセプトになります。

そして「海のミュージアム」の実例として紹介されたのが、“世界一美しい美術館”と言われる、コペンハーゲンのルイジアナ美術館で開催された「OCEAN」展です。これは「芸術と科学の間の海」「壮大で神話的な海」「人新世の海」の3つのテーマのもと、アートとサイエンスの境界線で繰り広げられている壮大な展覧会。単なる海をテーマにした美術展ではなく、海に関わる人々の知を集めた、私たちが目指すメルクマールとして紹介されました。
またミュージアム構想のもう一つのヒントとして、内閣府が運用する海洋状況表示システム「海しる」についても言及。「海しる」は地形・地質、海象、気象、安全、防災、海洋生物・生態系などさまざまなレイヤーで構成され、防衛省から国土交通省、国土交通省などさまざまな省庁が持つ海に関わるデータが一元化されたデータベースです。例えば海洋教育のレイヤーには国内の水族館や博物館などのデータも含まれ、国内には専門性に優れた博物館があることも分かります。
「海への向き合い方があまりに多様にありすぎて収拾がつかない、というのが正直なところ」とモデレーターの山田さん。まさに多様かつ膨大な情報量が大きな課題になってくるのですが、同時にそれは大きな可能性でもあり、「海のミュージアム」構想ではさまざまな視点から海と向き合う機会創出を目指していくことになります。

瀬戸内国際芸術祭から「海のミュージアム」を考える

では、私たちが海と向き合うときにはいったいどんな視点があるのでしょうか。今回のアイデアソンに向けて、大きなヒントとなるのが瀬戸内の島々を舞台に開催される現代アートの祭典、瀬戸内国際芸術祭です。瀬戸内国際芸術祭の推進課課長・増田敬一さんを壇上に迎え、瀬戸内国際芸術祭の目指すもの、歴史や特徴について話を伺いました。

「2010年に開催された初回の芸術祭は7つの島で、今では12の島と沿岸部、高松港や宇多津といったところも会場になっています。この島々はそれぞれ大きさも形も地質も違う。太陽は風の当たり方とか、波の当たり方も違うので、地理的条件が異なるとそこに生える植物も変わってきますし、住み着く生き物も異なるため、場所によって全然違う個性があることになる。その違いが、住む人の暮らしや生業にも影響して、魚がとれるところは漁業が盛んになりますし、小豆島のように大きな島だと田んぼも産業もある。産業が変わると、そこに住む人のキャラクターや考え方も変わってくるということで、その全然違う個性を読みとくことができるアーティストが、それぞれの島に関わりながら作品を作って、3年に一度展示をする。それをお客さんが船を乗り継ぎながら見て回る中で、作品を通してそれぞれの島の文化や魅力に気づいていくというのがこの芸術祭の主旨です」と増田さん。
豊島の豊島美術館や島キッチン、小豆島の李秀京による作品、笠島のアレクサンドル・ポノマリョフによる作品、伊吹島の栗林隆の作品など。設置された島の背景から、地元の人によるもてなしの実例などが紹介されました。

また、芸術祭の始まりについて「瀬戸内海は古来より交通の大動脈として栄えてきた場所。瀬戸内海が日本で最初の国立公園に指定されたのは、単にその景色が綺麗ということではなくて、景色と暮らしが一体になったエリアということが評価をされたからです。ただ、本来豊かであった瀬戸内海が、日本が近代化し高度経済成長が進む中で、元々海によって開かれていた場所が、逆に閉鎖性を利用して利用されるようになっていきました。直島には精錬所から出るガスで禿山になってしまって、今は植林が進んでいるがまだ一部にその状態が残っている。豊島は日本最大の産業廃棄物の不法投棄事件が1970年代からありました。それから大島はかつて多くのハンセン病患者が隔離・幽閉された国立のハンセン病療養所(大島青松園)がある島ですが、この島は今、人口減少が進んでいて、高齢化も進み非常に厳しい状態に置かれています。これらの問題をなんとかしたいというところから、この芸術祭は始まっているのです」と増田さん。
さらに、芸術祭の会期は三年に一度ではあるものの、地元では「100日のお祭りと1000日の活動」として、会期以外の活動がとても大事にされており、行政やアーティストと地域を繋ぐ存在としてサポーター組織「こえび隊」が大きな役割を果たしているとのこと。結果、芸術祭の開催により地元地域へも様々な効果が及んでいると言います。
たとえば、直近の2022年はコロナ禍でしたので少し減りましたが、2019年には来場者が118万人、経済効果は180億円にも。2019年にニューヨーク・タイムズ紙にその年に行くべき52ヶ所という記事で瀬戸内の島々が取り上げられ、今年はBBCの『The 25 best places to travel in 2025』の2位に直島が選ばれたそう。多くの人が関わることでここに住みたいと思ってくれる人も増え、移住してきた方にその後お子さんが生まれてと、島民の半分くらいが移住者になっている島もあると言います。
地域活性化を目的に各地で開催されるようになった国際芸術祭の中でも優れた成功例として国内外で注目される瀬戸内国際芸術祭。地域によってそれぞれ異なる課題そして魅力や楽しみ方がある海と大いに通じるものがあり、「海のミュージアム」のあり方の大きな指針になりそうです。

後編はアイデアソンで話し合われた内容について紹介します。


【開催概要】
第3回 国際海洋環境デザイン会議 「海のミュージアム」をデザイン視点で考える
会期:2025年3月4日(火)
時間:17:00~21:00
会場:渋谷ヒカリエ 8/ コート(東京都渋谷区渋谷2丁目21-1)
入場:無料
主催:一般社団法人3710Lab(みなとラボ)
助成:日本財団「海と日本プロジェクト2024」
協力:内閣府総合海洋政策推進事務局、東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センター

撮影:
大谷宗平
取材・文:
山下紫陽