レポート

海遊館

2023年度 海洋教育研究会レポート

2023.08.07

学校地域海洋教育

3710Labスタッフのハウレットは、7月28日に海遊館ホール&オンラインにて開催された「2023年度 海洋教育研究会」に参加しました。学びの多い機会となりましたが、今回は研究会で共有された各校の課題、私自身が海洋教育を実施するにあたって課題に感じたことを中心にレポートします。

2023年度 海洋教育研究会は、日本財団および笹川平和財団海洋研究所主催により行われました。社会教育施設との連携をテーマとした話題提供や、海洋教育パイオニアスクールプログラム採択校による活動報告が行われ、北は北海道から南は沖縄まで、全国各地の学校で行われている様々な取り組みが発表されました。

地域学習と海洋教育の融合

多くの学校では、まず子どもたちが海を身近に感じられるよう、地域ならではの自然や地形の特徴などを活かした学びを進め、ふるさとに興味を持つことができるような海洋教育を実践していることが発表されました。海が近くにない学校でも、川や生き物を通して、海がすべての自然とつながっていることが学べるような授業が展開されています。そのような地域やふるさとに関心を持つ展開からは、“海と人の共生に向かうための海洋教育”という視点が伝わりにくい部分がありました。ふるさとを大事にすることと、海を大事にすることのつながりを持たせることが課題であり、勘案すべき点だと感じました。

イベント化してしまう海洋教育

ごみ拾いや生き物探しなど、教室を飛び出して学習を行う子どもたちは好奇心旺盛です。不思議と未知に溢れている海について学び、海の生き物に実際に触れたりしながら学ぶことは子どもたちの興味関心に訴えかけるものがあります。研究会では、そのような特別な授業を行う際、海が魅力的であるからこそ子どもたちが「楽しい」だけで終わってしまい、イベント化してしまうという課題が共有されました。海洋教育の本当の目的や目標をどこに置くのか、深い学びにはどのように結びつけていくことができるかについても考える必要があると感じました。

海ごみ問題とその先

多くの授業で取り上げられていた内容は、海洋ごみの問題についてです。実際に海に行くことでそこにたくさんのごみが溢れていることを実感的に学び、さらにそのごみは街から排出され川に流れていることを学びます。自分とごみとの関係性につながりを持たせる授業です。海ごみの内容を取り扱う時に、その場所にあるごみを拾ってキレイにするだけでなく、そのごみがどうしてそこにあるのか、元々は使われていたものがごみへと化してしまう実態について、そして流れ出たごみは海に具体的にどのような影響を与えているのかについても、子どもたちは学ぶ必要があるのではないでしょうか。

社会教育施設との連携

社会科見学などで子どもたちが水族館や博物館への見学を行うことは、そこにある貴重な資料や展示物を実際に目にすることのできる大切な機会です。合わせて、教育のプロフェッショナルである教員と、コンテンツのプロフェッショナルである博物館が協力し、授業案を作成するという提案がなされました。社会教育施設との協力の場は、その施設だけに留まらず、幅広いアプローチのもとで様々な可能性があることが確認できました。どちらも「学び」を提供する場所である2つの場が協力をすることで、より具体的で充実した海洋教育を行うことができるかもしれません。

海洋教育の最も大きな課題

デンマーク・コペンハーゲン大学の物理気候学者、ピーター・ディトレフセン教授らが7月25日に英科学誌ネイチャーに発表した研究によると、このまま温室効果ガスの排出が続けば、大西洋の海洋循環が早ければ2025年に停止される可能性があります。海洋循環が停止されると、更なる異常気象や海面上昇が進み、地球上のすべての人類に大きな影響を与えることが懸念されています。この恐ろしく、しかし重要な事実を、学校でどのように扱えばいいのか。海を好きになり海に関心を寄せることと並行して、これ以上温室効果ガスを排出しないためにはどうすればいいのか、子どもも大人も一緒になって早急に話し合う必要があります。私の中での海洋教育の最も大きな課題は、この厳しい現実を子どもたちにどう教えていくかだと感じました。そのような中でも子どもたちが自分の未来や地球に希望を持って生きていくためにどのような教育を行うべきなのか、模索しつつも実行に移さなければならない時期に到達しています。

今回の研究会では、多くの学校が地域ならではの特徴を活かし、さまざまな工夫をしながら海洋教育に取り組んでいることがわかりました。海洋教育を行うことが、子どもたちが生きる力を養うことにもつながりがある、ということが共有される場でもありました。しかし、学校では各教科を勉強することや受験対策に追われ、まだまだ海洋教育の優先順位が低いことも確認できました。日本において、この危機的な状況にある地球に住む私たちの生活が脅かされている今、子どもたちが優先して学ぶことは何なのか、改めて社会規模で考える必要があるのではないでしょうか。海洋教育の浸透には課題も多く、どのように実践するのかは本当に難しい点です。しかし、海にはたくさんの魅力が溢れていることも確かであり、危機感と合わせて子どもたち自身がその魅力に気づくことも大切です。これからも、学校現場だけではない様々な機関が協力しながら、海洋教育の研究がなされることが求められています。

追記ー海の世界に感じる「ワクワクドキドキ」を原点に

海洋教育研究会終了後に、会場である海遊館を見学させていただきました。海の世界にお邪魔して生き物を見ることは、シンプルに表現すると「ワクワク」と「ドキドキ」の連続です。周りで見学をしていた子どもたちや大人も「おお~!」や「わあ~!」「見てみて!」と大興奮でした。

水族館に展示されている生き物たちは大切に保護されていますが、実際の海にいる生き物たちの中には、人間の生活によって命を脅かされているものも多くいます。私たちは誰もその生き物たちを故意に傷つけようとして、日々の生活を続けているわけではないでしょう。しかし、私たちがすでに慣れてしまっている便利な生活や、当たり前になっている生活スタイルが、生き物に影響を与え、海だけでなく地球を変えてしまっている実態は確かです。海の世界に感じた「ワクワクドキドキ」を原点に、改めて海洋教育の視点から大人と子どもがどのようにこの現実と向き合い、アクションを起こしていくべきなのか、自分には何ができるか、社会は何をすべきなのか、そんな事を考えさせられる機会となりました。