新潟県立海洋高等学校では、生徒たちが実際に海に出て学ぶことで、海に対する理解を深めています。海洋創造コースの2年生たちは、7泊8日の航海実習を通して、これまでの授業では得られなかった新しい気づきや体験を記録し、自分にとっての「海」と向き合いました。彼らの学びは、日常生活では触れることの少ない海とのつながりを再認識させてくれます。本記事では、実習を通して見えてきた「海」と生徒たちの姿をレポートします。
概要
全国の水産・海洋高校では、海の産業に関わるスキルを学ぶために、船の操縦や海の観測など、船上での実習が行われています。船での生活を体験し、航海中の対応力を養うためにとても大事な時間です。しかし、多くの人にとっては、生徒たちが実習を通してどんな体験をし、何を感じているのかを知る機会はありません。彼らは海とどのように関わっているのでしょう。
今回、3710Labは新潟県立海洋高等学校 海洋創造コースの2年生と協力し、乗船実習の魅力を探り、実習における学びをさらに深めるプログラムを開発、実施しました。生徒たちは2024年9月5日〜12日まで、新潟県の海を船でめぐる「乗船実習」を実施しました。この実習にあわせて様々な取り組みを行いました。
新潟県立海洋高等学校は糸魚川市にあり、実習船「海洋丸」、水深10メートルのプール、栽培漁業を学ぶための実習棟など、全国でもトップクラスの施設を持っています。学科は「水産資源科」と「海洋開発科」があり、特に「海洋開発科」の海洋創造コースは、海の環境を理解し、それを開発・制御する技術を学びます。卒業後は海の工事など、専門的な技術がもとめられる仕事に就く生徒が多くいます。卒業までに2回、定点での海洋・気象観測や、自然の海での潜水実習、施設見学などが含まれた乗船実習が行われます。
プログラム①これまでの体験から「海」を表現する
実習の2日前の9月3日、海について考え、言葉で表す授業を行いました。自分にとって「海」とはどんなものだろうか?まずはワークシートを使って書き出しました。生徒たちは海での体験や授業で学んだことを書いていました。特に印象的だったのは、海に対するイメージとして「危険」や「怖い」と感じる生徒が多かったことです。海がもたらす怖さは誰にとっても共通しているものでした。
実習では、海の多様な表情に気づき、色々なことを感じるはず。それらを残すために、「その日印象に残ったこと」を毎日ワークシートに記入することを計画。ワークシートの記入方法を学ぶために、「海にまつわる記憶」をテーマに練習しました。
ワークシートは「マンダラート」の形式を使い、思考を整理しながら記入しました。海にまつわる記憶を書き出し、その中から特に印象的な記憶についてさらに具体的に思い出し、記入していくことになります。このワークシートは、海との関わりを記録するとともに、考えを深めることを目的としています。
プログラム②7泊8日の乗船実習ー海を記録する
2024年9月5日〜9月12日の7泊8日間で、海洋・気象観測や佐渡島周辺の潜水実習、施設見学を実施。長期間の実習は今回がはじめてです。1日の終わりには船内の食堂に集まって、マンダラートに記入。また、写真で記録を残すために、各自が「写ルンです」で毎日自由に撮影を行いました。撮影できるのは27枚までなので、限られた中でどの瞬間を切り取るか、生徒たちはよく考えて撮影していました。
プログラム③自分にとっての「海」を見つめる
実習から2週間後の9月26日、生徒たちはそれぞれが感じた「海」についてディスカッションを行いました。
プログラム3は、実習期間中に写ルンですで撮影した写真を現像し、生徒たちに返すところからスタート。27枚の中から4枚を選び、写真を見せながら自分がどんな体験をしたのか、なぜその瞬間を撮影したのか、記憶を思い起こしながら話し合いました。次に、8日間記入したワークシートを振り返り、自分や仲間にどんな変化があったのかを確認しました。「初日は不安だったけれど、夕日に感動した」「潜水実習では最初は難しかったけれど、慣れると楽しめるようになった」など、生徒たちは特別な体験を通して自分が成長する瞬間を感じていました。
最後に、「自分にとって海とは何か?」という大きなテーマについてクラス全員で話し合いました。「海が好きだからこの学校に来た」「海のおかげで将来を考えるようになった」「毎日同じ海はないのが魅力」など、それぞれの海に対する思いを共有しました。
最後は「自分にとって海とは」についてひとりで考え、言葉にあらわす時間に。「求めていた場所」「身近だけど遠い存在」「夢」など、それぞれの思いが形となって選ばれた言葉たちは、海に対する個々の感情や視点を映し出していました。
振り返り
私たちは海から大きな影響を受けると同時に、海にも大きな影響を与えています。誰にとっても海はつながりのある存在です。しかし、そんな海に関わって、社会を支える未来を担う海洋高校での学びについては、あまり知られる機会がありません。彼らの学びは、実際の海での体験が重要な要素となり、その中には命の危険が伴うこともあります。海と向き合った時、彼らがどのように海を見ているのか。生徒たちが体験したこと、そこで感じたことは、実際に体験していない他者にとっても興味深く、そこから新たな海への視点や発見が生まれました。
今は、社会全体が「海」について見つめ直すべき時。だからこそ、海洋高校での学びを通じて、彼らが感じたこと、発見したことを広く発信していきたいと感じました。日々「海」について学び続けている彼らとともに、これからも海を深く考え続けていきたいです。
このプログラムについては、今後さらに詳しくまとめていく予定です。お楽しみに!
- 文:
- ハウレット エリー リー(みなとラボ)
- 写真:
- 新潟県立海洋高等学校 海洋創造コース2年生、教職員