レポート

真っ赤じゃない「赤潮」ー授業実践編

2016.01.15

学校海洋教育

東京ディズニーランの南側に広がる海から採取してきた「まっ茶色の赤潮」。記憶上のイメージとは全く異なって若干地味な赤潮。後編として、赤潮の授業の実践編をレポートします。

授業はひょんなことから始まった

授業は東京都台東区立忍丘小学校の4年生を対象に行いました。まずは、授業実施までの経緯を整理しておきます。
忍岡小学校の現4年生は、3年生時の学習発表会にて海の環境をテーマにした「ぼくたちみんな生きている」という劇を行いました。劇は、空き缶のポイ捨てから命の連鎖を考えようという内容で、劇中で「赤潮」がもたらす問題について触れられます。この劇を観ていたのが、東京大学理学部教授の茅根創さん。
茅根さんは、実際に子ども達は「赤潮」をみたことがあるのだろうか、赤潮の要因や影響についてどの程度理解しているのだろうかと疑問に思います。実際に、担任の先生と話をすると、子ども達は赤潮のことを感覚的には理解していても実際に見たことはないこと、劇中の内容をさらに深めた授業を展開したいとのこと。そこで茅根さんは「赤潮」をテーマとした授業の依頼を受けることになります。そこから、赤潮のスペシャリストと言える東京大学海洋アライアンスの野村英明さん、教育学を専門とする田口に、授業実施の協力依頼が届いたというわけです。
野村さんと茅根さん、田口とで「赤潮」をテーマとした授業の内容を考えました。授業の目的としては、赤潮がなぜ発生するのか、赤潮とはどのような現象なのかを簡単に理解してもらうこと。人の暮らしと海の環境のつながりを知り、身近なことから、海の環境の維持を考えること。この二つを大きな目的としました。自分たちの生活が海の環境と関係があることについて感じてもらいたいな、との想いからです。

赤潮採取編はこちら


いざ、授業の実施!

授業は野村さんがメインで行い、田口が補助に入るという形で行いました。
まずは、茅根さんが授業の導入として「赤潮」について知っているかを聞きました。昨年に劇をしていた子どもたちは当然「知ってるー!」と元気良く答えます。次に「赤潮の色って何色ですか?」と聞くと、これまたさらに元気良く大声で「あかーーー!」と。茅根さんが「本当に?」と言わんばかりの表情をすると、教室の雰囲気がガラッと変わり、子どもたちはざわざわ。「実際に「赤潮」を採ってきたので、確認してみよう」と言うと、子どもたちからは「えっ……あかしおってとれるの?」と言った声も聞こえてきます。

子どもたちの関心を引いたところで、野村さんにバトンタッチ。海水中にプランクトンがいることを確認し、赤潮はプランクトンが増えることによって起こることを伝えました。その時、真っ赤に色づく赤潮は「夜光虫」という動物プランクトンによるもので、多くの場合は植物プランクトンが増えることにより発生する茶色い赤潮であることを確認しました。


顕微鏡で赤潮の中をのぞいてみる

でも、海水中にプランクトンがいると聞いても、実際に見てみないとわからないですよね?それに、そのプランクトンが赤潮を起こすといっても、なんとなくわかったような気にしかならない。そこで、採取してきた赤潮の登場です。採取してきた赤潮の中のプランクトンが見られれば、感覚的にも理解ができるようになります。そこで、実際に顕微鏡にて赤潮の中をのぞいてみよう!としたわけです。

ほとんど初めて触れた顕微鏡の操作に戸惑いながら、「あ、なんか見えた!」「こっちこっち、丸いなんかがいるよ!」「先生、これはプランクトン?」などと、みんなが積極的に観察していました。見えたものをスケッチしてもらいながら、事前に用意しておいたプランクトン図解にて、見えたプランクトンの種類やプランクトンの名前を確認していきます。


赤潮が発生した原因を探る

赤潮がプランクトンが増えることで起きることを顕微鏡での観察から感じ取った後には、赤潮がなぜ発生するようになったのかを、昔の東京湾と現在の東京湾の様子を模式図にしたものから読み取っていきます。プランクトンは栄養が多いと増えていくことを学んだ子どもたちは、自分たちの生活から出た栄養が海に流れていく過程に着目。昔と現在とで何が異なるかを模式図から熱心に読み取る子どもは、「砂浜の貝がいなくなったことも関係あるのかな?」と素晴らしい気づき。

野村さんは、授業の最後に一つ問いかけをしました。植物プランクトンが増えすぎると赤潮が生じて、魚や貝は困ることになるけれど、植物プランクトンがなければ魚や貝はエサに困る。「ああ、たしかにそうだ……」と子どもたち。じゃあ、どうすればいいんだろう?そのことを一緒に考えていくことを子どもたちと約束して、授業を終えました。


海の色の違いから海を想う

できるだけわかりやすく伝えるにはどうしたらいいか。楽しんでもらいながらも、海の環境保全に少しでも意識を傾けてもらうにはどうしたらいいか。今回の授業を実施するまでに、何度もの打ち合わせを重ねました。それも、野村さんの海への想いからです。最後に、野村さんからのメッセージをお届けします。
「日本は海に囲まれています。みなさんは旅行でいろんな場所の海を見ているのではありませんか。知床、神戸、沖縄そしてお台場や江ノ島、もしかしたらハワイやセブの海を見たことのある人もいるかもしれません。海の色はどこに行っても同じですか?透明な海、青緑色の海、濁った海、さまざまでしょう。海の色が何でそんなに違うのかを考えてみてください。きっとわたしたちと海とのつながり、地球とのつながりが見えるはずです。」

文:
田口康大